グラウドの怪「バウアー」その正体に迫る
「怪人 バウアー」。社内でそう呼ばれる男がいる。鋭い眼差し、不敵な笑み、大柄な体格。そして売り場全体に響き渡る大きな声。一度見た者を釘付けにし、その圧倒的な存在感は脳裏に深く刻まれる。
そんな彼、永田英臣氏からインタビュアーとして指名を受けた私(代表白石)。師走の多忙を極める中、「なんで俺なんだ?」と戸惑いながらも、断る理由は見当たらない。これも何かの縁だと覚悟を決め、恐る恐るその謎に満ちたベールをめくることになった。
想像を覆す「普通さ」
まるで調理法のわからない魚を釣り上げたような気分でインタビューが始まった。軽いアイスブレイクのつもりで、五月雨式に質問を投げかける。「好物は寿司と焼肉です。」「彼女は募集中で、いつか親に孫の顔を見せたいですね(笑)」――意外にも、どこまでも「普通」な回答が続く。「どんな異質さが飛び出してくるのか」と身構えていたが、剥いても剥いても現れるのは至って「普通」な姿。内心、「このままだと収穫ゼロかもしれない」と焦りを覚え始めた。
だが、会話が進むにつれ、次第に自分自身の誤解に気づかされていく。豪快な前評判や圧倒的な存在感から、私は彼を強烈な“個性”の塊のように思い込んでいた。ところが、その実態は驚くほど常識的で、“社会性”に富んだ人物だった。
「なんだよそれ。まともじゃないか。」思わず本音がこぼれた。これこそ、いわゆる“アンコンシャス・バイアス”の典型なのだろう。聞き手としての未熟さも手伝い、先入観に囚われたまま、掴みどころのない会話が続く。そして、混沌としたまま、インタビュー前半戦は幕を下ろすことになった。
商売人の家で培われたスタンダード
インタビューはパーソナリティ編から仕事編へと進む。ここでも彼は、「やるべきことをやる。それが自分の仕事。別に特別なことはしていないですよ。」と謙虚に語り始めた。「小さい頃から、商売人の家で育ったせいか、お客さんと接するのは慣れてるんですよね。」と懐かしげに幼少期を振り返る。 日常に商売が根付いた環境で育ち、従業員やお客さんと触れ合う中で自然と培われた人間観や商売観。その背景には、似た境遇で育った私自身も深く共感する部分があり、気づけば彼の言葉に自らの原点を重ねていた。
接客の心がけについて尋ねると、「お客さんの素敵なところを見つけて、自分がそのファンになるんです。話を重ねるうちに信頼をいただけるようになって、少しずつ良い提案ができる。それが現場の面白さなんですよね。」と熱をおびて語る。
確かに、戦略やマネジメントを得意とするタイプではないかもしれない。しかし、彼の愚直ともいえる一貫した行動スタイルには、他者には真似できない力強さがある。それは机上の理論では生み出せない、巧妙さと柔軟さを兼ね備えた“現場力”であり、彼の仕事を支える大きな柱となっているのだと感じた。
響き渡るバウアーの咆哮
現場に立つと、彼は誰よりも売り場を歩き回り、誰よりも多くのお客様に声をかける。その姿勢は徹底しており、腰を痛めることさえ厭わない。“効率的かどうか”を考える暇があれば、一分一秒を惜しんで声をかけ続ける。
「売り場で大声を出すのは、自分や周りを鼓舞するためでもあります。たまに怒られることもありますが、声を出さないとやる気が出ないんですよ!」と恥ずかしそうに笑う。しかし、その実績を知る者に、不器用さを笑う人はいないだろう。
「自分がやっていることは、誰にでもできることです。誰かが手を緩めるときこそ、自分はやり続ける。それだけです。」と語る彼の言葉には、確かな重みがあった。「ああ、そういうことか。」私はようやく彼の本質に触れられた気がしたのだ。
グラウドの理念を体現する男
グラウドの理念は「楽」の一文字。一人ひとりの思いを支え合い、日々の充実を実現するというシンプルな考え方だ。しかし、その実践は決して簡単ではない。バウアーは、自分の揺るぎない基準でこれを体現している。
「仕事を楽しむって難しいですけど、ここはそれを実現できる場所。メンバーのために頑張ろうって思える。自分にとっても安心できる場なんです。」と語る彼の言葉に、グラウドという会社の存在意義が詰まっている。
ふと、ニーチェの「超人」という概念が頭をよぎった。超人とは、自分の価値基準を外に求めず、自らの意思と力で道を切り開き、周囲を照らす存在のことを指す。バウアーの「普通」を貫く姿勢は、まさにその定義に重なる。
彼は自分の基準で、日々目の前の現実と向き合い続ける。その働き方は華々しくはないが、周囲を支え、惹きつける力強さがある。揺るぎない意志で、シンプルながらも深い「楽」という理念を現場に根付かせ、エネルギーに変えているのだ。
バウアーこと、永田英臣――彼の正体は、グラウドを象徴する「超人」そのものであった。